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ラテン文学の韻律(2)

 ラテン文学の韻律(2)

「ラテン文学の韻律(1)」から続く韻律の説明です。
具体的な韻律を3種類(叙事詩の韻律、エレゲイアの韻律、イアンブスの韻律)を紹介します。
「ラテン文学の韻律(3)」では特に抒情詩の韻律を扱う予定です。


ダクテュリクス・ヘクサメテル(dactylicus hexameter)

叙事詩や牧歌詩の韻律
ウェルギリウス『牧歌』『農耕詩』『アエネーアース』、オウィディウス『変身物語』など
一行のなかにダクテュルスというメトロン(-v v)を6つ含む
ダクテュルス:-v v

 ダクテュリクス・ヘクサメテル (dactylicus hexameter)
v v / -v v / -v v / -v v / -v v / --
 arma virumque cano, Troiaequi primus ab oris
 arma vi/rumque ca/no, Troi/ae qui / primus ab / oris
 -v v / -v v / -v v / --/ -v v / --
(ウェルギリウス『アエネーイス』1.1)

・ダクテュリクスとは、「指」を意味するギリシア語で、指が二つの節に区切られるところを韻律の「-v v」と重ね合わせている。
・略して「ヘクサメテル」と呼ばれる。
・ダクテュロス・ヘクサメトロス(ギ)、ダクテュリック・ヘクサミーター(英)など、それぞれの言語で多少呼び方が異なる。
・日本語では、「六脚律」と呼ばれることもある。


ヘクサメテルの規則
・「-v v」(ダクテュルス)は「--」と置き換えられる
・ただし、5番目のメトロンが「--」(スポンデー)になることはまれ。
・最後の「-」は行末のため、「v」でもよい。そのために、6番目のメトロンのスポンデー(--)は、(-v)でもよい。


ヘクサメテルのカエスーラ(切れ目)と韻律
カエスーラは行のあいだに挟まれる「切れ目」。そのためにカエスーラは当然「単語の終わり(diaeresis)」に来る。そのカエスーラは位置によって以下のように呼ばれる。

(1)3番目のメトロン内部: masculine caesura、feminine caesura
この位置にカエスーラが来ることがもっとも多い。
逆に、3番目と4番目のあいだにカエスーラを置くことは避けられる。
3番目のメトロンの内部にカエスーラが来る場合は、二通り(masculine caesura、feminine caesura)に分かれる。

 masculine caesura: 3番目のメトロン内部の、長音節の後にカエスーラがある場合
v v  -v v  -∥v v  -v v  -v v  --
 feminine caesura: 3番目のメトロン内部の、短音節の後にカエスーラがある場合
v v  -v v  -v ∥v  -v v  -v v  --
 避けられる: 3番目と4番目のあいだにカエスーラが置かれること
v v  -v v  -v v ∥-v v  -v v  --

(2)4番目のメトロンの終わり: bucolic diaeresis
4番目のメトロンの終わりに、「単語の終わり(diaeresis)」が来てカエスーラが置かれることを、bucolic diaeresis(bucolic caesura)と呼ぶ。この場合には、3番目のメトロンの前のスポンデー(--)は避けられる。
bucolicとは「牧歌的」という意味であり、テオクリトスの『牧歌』に顕著な形式であり、ヘレニズム期のヘクサメテル全般の特徴でもある。

 bucolic diaeresis: 4番目のメトロンの終わりにdiaeresis(caesura)
v v  -v v  -v v  -v v ∥-v v  --

(参考) 5番目のメトロンがスポンデー(--)になっている場合: spondeiazon
上記したように、5番目のメトロンがスポンデーになることは非常にまれである。そのために、逆にヘレニズム以降の詩人たちは、特殊な効果を目指して、何行か立て続けに用いる場合がある。

 spondeiazon: 5番目のメトロンがスポンデー
v v  -v v  -v v  -v v  --  --

・アクセントについては「ラテン文学の韻律(1)」をご覧ください。
簡単に説明すると、アクセントはダクテュルスの長音のところ(v v)に置くのが慣例。
例えば「v v v v v v v v v v -」:色をつけた長音節の部分にアクセントを置く。
イメージとしては「タンタタ、タンタタ、タンタタ、タンタタ、タンタタ、タンタン」


ディスティコン(distichon)

エレゲイアの韻律
ティブッルス、プロペルティウス、オウィディウス(『変身物語』以外)など
ディスティコン(distichon): 2行詩のことを指し、elegiac couplet、またはelegiac distichと呼ばれることが多い。

1行目: ダクテュリクス・ヘクサメテル (-v v -v v -v v -v v -v v --)
2行目: ダクテュリクス・ペンタメトルス (-v v -v v -∥-v v -v v -)

 ディスティコン (distichon)
v v -v v -v v -v v -v v --
v v -v v -∥-v v -v v -
 qui modo Nasonis fueramus quinque libelli,
  tres sumus; hoc illi praetulit auctor opus.
 (オウィディウス『Amores』1.1)

・ペンタメトルスの真ん中には必ずカエスーラが置かれる。
・メンタメトルスの後半では、スポンデー(--)は許されない。
・読み方は「v v v v v v v v 」というように、色づけしたところにアクセントを置くのが慣例。
・ダクテュリクス・ペンタメトルスは、「ダクチュルス(-v v)を5つ」という意味だが、実際には、ヘーミエペス(hemiepes「エポスの半分」)が2つと理解する方が正しい。
hemiepes: ヘーミエペス(-v v -v v -)
・多くの場合、ディスティコンの2行目の終わりで、文章も終わる(ピリオドが来る)。


イアンブス(iambus)

イアンブス詩・悲劇や喜劇の台詞で用いられる韻律
イアンビクム・メトルム(iambicum metrum): 「X-v-」が基本


イアンブス
イアンブス詩の韻律
基本となるイアンビクム・メトルム(X -v -)を組み合わせることで構成される。
ホラーティウスの『エポーディー』などに見られる。色々なタイプがある。

 例: trimetra iambica kata stixon
X-v-X∥-v-X-v-
X-v-v-v-
 Ibis Liburnis inter alta navium,
   amice, propugnacula,
 paratus omne Caesaris periculum
   subire, Maecenas, tuo.
 (ホラーティウス『エポーディー』1.1-2)

イアンビクス・トロカイクム (iambicus trochaicum)
悲劇や喜劇の台詞で用いられる韻律
イアンブス(X-v-)が3つ続く

イアンビクス・トロカイクム (iambicus trochaicum)
X-v- X-v- X-v-

・英語では「Iambic Tremeter」と、日本語では「イアンボス調三脚律」と呼ばれる。

イアンビクス・トロカイクムの長音節は短音節2つで代用されうる:resolution
このresolutionを加えて書くと韻律は以下のようになる。

resolutionを書き加えた イアンビクス・トロカイクム (iambicus trochaicum) 
X v v v v v X v v v v v X v v v-

以上のように、長音節と短音節の組み合わせが非常に自由。そのために、イアンブス調はもっとも会話に近い韻律と言われ、非常に自由。悲劇等に用いられる場合よりも、さらに喜劇では韻律の統一性が無く、自由な発話のように用いられる。


イアンブス・トロカイクムのカエスーラ
カエスーラの位置は、2番目のイアンブスの間。

 2番目のイアンブスの、Xのあとに置かれる
X-v- X∥-v- X-v-
 2番目のイアンブスの、vのあとに置かれる
X-v- X-v∥- X-v-
 カエスーラを置かない: 2番目のイアンブスを二分する位置
X-v- X-∥v- X-v-

関連事項

ラテン文学の韻律(1) ラテン文学の韻律(1)

ラテン文学の韻律(3) ラテン文学の韻律(3)


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このページの最終更新 2007/9/9
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